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ゾルベツキシマブ、CLDN18.2陽性の進行胃がんに承認/アステラス

 アステラスは2024年3月26日、ゾルベツキシマブ(商品名:ビロイ)について、CLDN18.2陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がんを効能・効果として日本における製造販売承認を取得した。 今回の承認は、CLDN18.2陽性HER2陰性の切除不能な局所進行または転移のある胃/食道胃接合部腺がんの1次治療に対する第III相SPOTLIGHT試験およびGLOW試験の結果に基づいている。両試験とも、ゾルベツキシマブ+化学療法群(mFOLFOX6またはCAPOX)は、主要評価項目である無増悪生存期間および重要な副次評価項目である全生存期間に対し統計的に有意な延長を示している。ゾルベツキシマブ+化学療法群で発現頻度の高かった(20%以上)治療関連有害事象は、悪心、嘔吐、食欲減退、好中球減少症、体重減少であった。なお、CLDN18.2陽性はSPOTLIGHT試験およびGLOW試験スクリーニングされた患者の約38%を占めた。 ゾルベツキシマブのコンパニオン診断薬としては、ロシュ・ダイアグノスティックスが承認取得したベンタナ OptiView CLDN18を使用する。この検査は、日本でも複数の検査機関を通じて利用可能となり、順次、他の検査機関にも拡大される予定である。

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第184回 線虫がん検査『N-NOSE』、検査精度の疑惑が再燃、日本核医学会の中にあるPET核医学分科会・PETがん検診ワーキンググループが本格調査へ

たびたび疑惑が向けられてきた線虫検査の“実態”がやっと解明される?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、新潟・弥彦競輪場で開かれた競輪のG1レース、第32回寛仁親王牌を、ネットのレース中継と、電話投票で楽しみました。決勝レースは大阪の古性 優作選手が他を寄せ付けない圧倒的な強さで優勝しました。なんと、古性選手は今年、全日本選抜、高松宮記念杯に次いで年間3度目となるG1制覇です。暮れのグランプリももぎ取りそうな勢いです。ちなみに私の車券はハズレました。かつては私もよく現場に足を運んだものです。弥彦山の麓、弥彦神社境内にある弥彦競輪場にも幾度か行ったことがあります。ただ最近は、もっぱらネットでレースを観戦しています。便利ですが、競輪場のあの猥雑さやB級グルメを楽しめないのは少々寂しいです。ひと昔、いやふた昔くらい前までは、“コーチ屋”と言われる人が、普通に競輪場にいました。コーチ屋とは、競馬場や競輪場、場外投票券発売所にいて、カモになりそうな客に「いい情報あるよ」と近づき、自分の“特別”の予想を教え、買い目を指示するなどの行為を行ってお金を騙し取る人々のことです。買い目を教えた場合、コーチ屋はレースが終わるまでその客をマークしていて、もし買い目通りに当たった場合、再び客の前に現れ、配当金の中からからコーチ料を支払うよう要求します。逆に外れてしまった場合は客の前からは消えて、知らんぷりを決め込みます。車券や馬券が当たった時だけ、「自分のおかげだ。報酬よこせ」とお金をせびるわけです。もっとも現在は、公営ギャンブルでの詐欺の仕組みは複雑化しており、場内で声をかける古典的コーチ屋は絶滅したと言われています。さて今回は、最近再び話題となっている線虫がん検査について書いてみたいと思います。体長約1mmの線虫を使って人の尿からがんの有無を調べる検査法の精度を検証するため、PET核医学分科会のPETがん検診ワーキンググループのチームが、実態調査を始めたとの報道が10月13日にありました。これまで、幾度か疑惑報道がありましたが、医学会が本格的に動くのは初めてです。検査の手法や精度について、たびたび疑惑が向けられてきた線虫検査の“実態”がやっと解き明かされるかもしれません。1回検査の料金は1万4,800円、50万人以上が検査を受ける線虫を使って人の尿からがんの有無を調べる検査法とは、「15種類のがんを判定できる」と全国展開中のHIROTSUバイオサイエンス(本社:東京都千代田区)の線虫がん検査キット『N-NOSE』です。数年前までは旧ジャニーズ事務所の社長になった東山 紀之氏、最近では女優の仲間 由紀恵氏がテレビCMで宣伝しています。『N-NOSE』は九州大学助教だった広津 崇亮氏が設立したHIROTSUバイオサイエンスが2020年1月に実用化したがんのリスク判定の検査です。がんの「診断」ではなく「リスク判定」と言っている点が、この検査の一つの肝だと言えます。『N-NOSE』は、すぐれた嗅覚を有する線虫(Caenorhabditis elegans)が、がん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用、わずかな量の尿で15種類のがんのリスクを判定する、というものです。同社によればこれまでに50万人以上が検査を受けているとのことです。健康保険適用外で、1回検査の料金は1万4,800円(税込)です。約200施設を対象に、線虫がん検査をきっかけとしてPET検診・検査に訪れた人を調査この『N-NOSE』の精度を検証しようと立ち上がったのは、日本核医学会の中にあるPET核医学分科会・PETがん検診ワーキンググループです。10月13日付けの朝日新聞などの報道によれば、『N-NOSE』の精度に懸念があるとして、PET核医学分科会・PETがん検診ワーキンググループが、共同研究としてアンケート形式による全国調査に着手したとのことです。約200施設を対象に、線虫がん検査をきっかけとしてPET検診・検査に訪れた人数や、実際にがんが見つかった人数、がんの種類、進行度などを10月20日までに報告してもらい、年内に結果をまとめ、この検査の有効性を科学的に評価したいとしています。『N-NOSE』は、尿を調べれば15種類のがんについて、がんになっているリスク(低いほうからA~Eの5段階)がわかると宣伝しています。今年6月に開かれた日本がん検診・診断学会総会では、この線虫がん検査でリスクを指摘された後、より詳しく調べたいと、PET(陽電子放射断層撮影)検査を受けた人の状況が3施設から報告されました。それによると、がんではないのにがんのリスクが高いと判定される「偽陽性」が極めて多いことがわかりました。さらに、ある施設では、がんと診断されたばかりの患者10人の尿を検査してもらったところ、10人全員が低リスク(A、B)の判定が返ってきたとのことです。朝日新聞の記事は、今回の全国調査の副代表を務める厚地記念クリニック(鹿児島市にあるPET検診クリニック)院長の陣之内 正史氏の「がんのない人が高リスクと判定されることで、各地で混乱を招いている恐れがある。また、実際にはがんなのに低リスクとされた結果、がん検診を受けるのが遅れて、がんが進行してしまう恐れもある」というコメントを紹介し、続けて、HIROTSUバイオサイエンス社は今回の調査開始について、「PETにはN-NOSEの感度を検証する能力はなく、PET以外の複数の検査方法を用いたとしても、アンケートは主観的なバイアスがかかりやすい手法だなどとして『信頼のおける検証にはなりえません』とコメントした」と書いています。この調査は別にPETで行うわけではなく、がんがあったかどうかの結果を分析しようというものなので、同社の反論の意味はちょっとよくわかりません。約2年前には週刊文春が“疑惑”を報道さて、『N-NOSE』については、約2年前、週刊文春2021年12月16日号が、「線虫がん検査「精度86%」は問題だらけ 『尿一滴でわかる』で話題」と報道した時に、本連載でも詳しく書きました(第89回:がんが大変だ!線虫がん検査に疑念報道、垣間見えた“がんリスク検査”の闇[後編])。結局、文春報道はこの記事だけに留まり、ほかのマスコミも動かず、真相は藪の中となってしまいました。その一つの大きな理由は、こうした「がん(病気)のリスクを判定する」と喧伝する検査のほとんどが、医療機器でもなく診断薬でもないため、薬機法や医師法、健康保険法といった、厚生労働省所管の法律外にある検査法であるためと考えられます。つまり、仮にインチキだとしてもそれを罰する法律は今のところ日本にはないのです。「罪がないからOK」とは言えないのが医学・医療の難しい点です。陣之内氏のコメントのように、無用な不安を与えたり、不要な検査を強いたり、逆に検査遅れを招いたりしていたとしたら、それはそれで大きな“罪”と言えるからです。NewsPicksに『N-NOSE』の実態に迫る記事が連続掲載今回、再び『N-NOSE』が話題となっているのは、先述の日本がん検診・診断学会総会において、線虫がん検査でリスクを指摘されたPET検診の結果が発表されたこともありますが、同時にニュースサイト、NewsPicksで今年9月11日から『N-NOSE』の実態に迫る記事が連続して掲載されたことも大きく関係していると思われます。NewsPicks副編集長で科学ジャーナリストの須田 桃子氏らの取材班が9月11日以降、NewsPicksに「虚飾のユニコーン 線虫検査の闇」のシリーズタイトルでこれまでに掲載した『N-NOSE』関連記事は実に7本に上ります。「【スクープ】世界初の『線虫がん検査』、衝撃の実態」「【実録】社員が止められなかった『疑惑のがん検査』」「【解剖】『疑惑のユニコーン』を肥大化させたエコシステム」…と刺激的なタイトルが付けられた一連の記事は、先述した6月に開かれた日本がん検診・診断学会総会で発表された偽陽性が極めて多く、がんであっても見逃される偽陰性も多数発生していることや、ベールに包まれた検査のアルゴリズムの中身、『N-NOSE』開発のきっかけとなった論文の実験が再現されないことなどについて、元社員らの証言も交えて詳細にレポートしています。また、9月15日に配信された「嘘をつく『動機がない』。疑惑の渦中で広津社長が語ったこと」というタイトルの記事は、HIROTSUバイオサイエンス社長の広津氏への直撃インタビューですが、検査のアルゴリズムや、日本がん検診・診断学会総会の発表内容、ランダム化比較試験の必要性などについて問われると、広津氏の答えが突然曖昧になっていくのが印象的でした。HIROTSUバイオサイエンスは一連の報道に反論NewsPicksの一連の報道に対し、HIROTSUバイオサイエンスは、「一部メディアの報道について」というプレスリリースを9月18日に出しています。そこでは、「看過しがたい重大かつ悪質な“誤情報”も含まれておりましたので、ここに当該箇所を指摘すると共に訂正いたします」として、なんと30ページにも及ぶ記事への反論を展開しています。ちょっと長過ぎるな、反論もよく理解できないな、と思っていたところ、記事発信サイトのnoteで「手を洗う救急医Taka」氏がこの反論を科学的に検証した記事「HIROTSUバイオサイエンスのNewsPicksに対する反論について」を見つけました。検査というものの感度、特異度、陽性・陰性的中率、そして有病率の意味を解説、その上でHIROTSUバイオサイエンスの反論の意図するところについてわかりやすく説明してくれていますので、興味のある方は読んでみてください。この記事の中で「手を洗う救急医Taka」氏はHIROTSUバイオサイエンスが使う「標準化変換」という独自の言葉に疑問を呈しています。その点は、私自身もプレスリリースを読んでいて、「なんじゃそりゃ?」と疑問を感じた部分です。「手を洗う救急医Taka」氏はその「標準化変換」について、「HIROTSUバイオサイエンスでは、一定数の検体を同時に検査し、その中で検査値が高いものから順にがんと判定しているということではないかと思います。(中略)カットオフを変える行為のことを『標準化変換』と読んでいるのでしょう」と書き、「バッチによってカットオフが変わるんだから、毎回感度と特異度が変わりません?(中略)『弊社は毎回の検査でカットオフを変えていますので、検査に感度と特異度は存在しません』と言わなければいけないのではないでしょうか?」と指摘しています。検査精度に本当に自信があるのならブラインド検査を実施するべき本連載の第89回でも書いたように、臨床検査には、「分析学的妥当性」「臨床的妥当性」「臨床的有用性」という3つの評価基準があります。この3つを証明するデータを、きちんとしたプロトコールによって行った臨床試験等で出し、それが評価されれば、保険診療において使用が認められるし、海外でも用いられるようになります。しかし、こうした「がん(病気)のリスクを判定する」と喧伝する検査の多くは、お金と時間が膨大にかかる臨床試験を敢えて避け、日本だけの一般向け検査でお茶を濁しています。また、お金と時間の節約のためではなく、単に自分たちの検査の精度に自信がない場合も、臨床での使用をはなから諦めて一般向け製品で妥協するケースもあります。HIROTSUバイオサイエンスも、もし検査精度に本当に自信があるのなら、意味不明な数字遊びではなく、「手を洗う救急医Taka」氏も主張するブラインド検査(ランダム化比較試験)を実施するべきでしょう。また、こうした検査によって無用の心配を被験者にさせたり、見落としによって手遅れになったりするケースが増えているとしたら、厚生労働省は法律を作って何らかの規制に乗り出すべきだと考えます。仮に見落としがあったとしたらコーチ屋よりもたちが悪い「第89回」でも書きましたが、検査を受けた人がアコギな医療機関に食いものにされる危険性もあります。提携医療機関の中には、『N-NOSE』陽性の人に対し、自費での高額な検査を勧めるところもあると聞きます。『N-NOSE』はあくまでリスク判定であるため、そこで陽性の判定が出ても、基本的にすぐには保険診療とはなりません。一度、高額な自費検査を挟んで、病気が見つかってはじめて保険診療に進む流れです。またそうではなく、『N-NOSE』で陽性と出て、すぐに保険診療を行っているとしたらそれはそれで問題です。その時点ではまだ“健常者”に保険診療を行っていることになるからです。明らかに健康保険法違反です。最終的にがんが見つかった時だけ、「ほら見つかったでしょう」では、競輪場のコーチ屋や占い師とそう変わりません。仮に見落としがあったとしたら、それはコーチ屋よりもたちが悪いと言えるでしょう。ということで、まずはPET核医学分科会・PETがん検診ワーキンググループの調査結果を待ちたいと思います。

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Guardant360 CDx、HER2変異陽性NSCLCにおけるT‐DXdのコンパニオン診断として承認/ガーダントヘルスジャパン

 ガーダントヘルスジャパンは、がん化学療法後に増悪したHER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ、以下 T-DXd)の適応判定補助を目的としたコンパニオン診断として、リキッドバイオプシー「Guardant360 CDx がん遺伝子パネル」(Guardant360 CDx)に対する製造販売承認事項一部変更承認を2023年8月28日付で厚生労働省から取得した。 HER2遺伝子変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)の70%を占める、非扁平上皮NSCLCの2〜4%に認められる。 Guardant360 CDxのT-DXdに対するコンパニオン診断の適応は、2022年8月に米国食品医薬品局によって承認されており、日本においても同様に承認されたもの。 Guardant360 CDxはコンパニオン診断薬として、ペムブロリズマブの適応となるMSI-High陽性固形がん患者、ニボルマブの適応となるMSI-High陽性直腸・結腸がん患者、ソトラシブの適応となるKRAS G12C陽性非小細胞肺がん患者にも承認されている。

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第174回 レカネマブ承認へ、医療者を待ち受ける5つの関門

ついにアルツハイマー病(AD)に対する抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬が、日本の臨床現場に登場することが確定的となった。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会は8月21日、エーザイと米国・バイオジェンが共同開発したlecanemabの承認を了承した。これにより年内には保険適用となる見込みだ。思えば2012年の米国のファイザーとジョンソン&ジョンソンによる抗Aβ抗体の静脈注射製剤bapineuzumabの開発中止に始まり、死屍累々だったAβ標的の新薬開発は、ようやく一つの成果を得た形だ。一方で、ADの治療現場では患者・家族の期待値と現実とのギャップが原因で、今後は患者・家族とのコミュニケーションで疲弊させられる可能性も増してくる。大雑把に言えば、疲弊させられる“関門”は5つある。まず、ADは認知症の6~7割を占める原因疾患だが、そのほかに脳血管性認知症、レビー小体型認知症があるが、一般人はこれらの個別の疾患よりもざっくりとした「認知症」というキーワードで認識している人のほうが多数派だろう。それゆえにlecanemabが実際に登場した段階では、ADかどうかにかかわらず「私も」「うちの家族も」という誤解した期待の声に医療従事者は振り回されることになる。ここが第1の関門である。さらに、lecanemabはご存じのように軽度ADと軽度認知障害(MCI)を総称した早期ADのみが適応だ。ここで中等度AD以上の患者・家族は落胆するはずだ。第2の関門である。そして第2関門まで通過した早期ADの患者・家族を待ち受けている第3の関門、それが検査方法である。今回の医薬品第一部会ではlecanemabの承認了承に合わせ、Aβを可視化する陽電子放出断層撮影(PET)用の放射性診断薬であるフルテメタモル(18F、商品名:ビザミル)、フロルベタピル(18F、同:アミヴィッド)の効能追加も了承され、検査面で地ならしも行われた。現在、Aβの蓄積を確認するためには、このアミロイドPETか脳脊髄液検査(CSF検査)という手段になる。しかし、前者は放射性物質の半減期が極めて短いため、地域によっては身近な医療機関では物理的に受けられないことが起こり得る。加えて十分なアミロイドPETの読影訓練を受けた医療従事者がいる医療機関も限られる。さらに保険適用になっても患者は数万円の自己負担が必要になる見込みである。一方で脳脊髄液検査は侵襲性の高い腰痛穿刺が必要になり、現在の保険適用されている体液バイオマーカーは脳脊髄液リン酸化タウ値のみ。ADの診断により適した脳脊髄液アミロイドβ42は保険適用となっていない。昨今では島津製作所が開発している簡易血液検査が注目されてもいるが、おそらくこれが承認されても、第一段階のスクリーニングのみの使用になり、最終的な確認のためにアミロイドPETという流れになる可能性は十分ある。いずれにせよこの第3の関門で、経済的、物理的な理由で検査を躊躇する、あるいは受けられない一部の患者・家族の苦悩と医療従事者は向き合わねばならない。さらにこれら3つの関門を通過して晴れて投与対象になったとしても、第4の関門として、年間数百万円の薬剤費という現実に多くの患者が直面する。たとえ高額療養費制度を使ったとしても、かなりの経済的な負担になることは確実で、その金額に尻込みをする患者・家族が少なからず発生することになるだろう。そして最後の関門は、投与を始めたものの効果を“実感”できない患者・家族から不満が出る可能性である。第III相試験「Clarity AD」で示されたlecanemabの有効性とは、臨床的認知症尺度(CDR:Clinical Dementia Rating)の合計点数(CDR-SB、18点満点)から見ると、プラセボに比べ、進行が27%抑制されていたというもの。一般人からすれば、数字だけを聞くと、劇的な効果と思う人もいるだろうが、この効果は患者・家族はおろか医療従事者ですら見た目で実感できるものではない。そもそも一般人の多くが「薬=病気を治すもの」と考えている中では、投与前に入念な説明をしても、この薬でADによる物忘れが以前よりも少なくなるのではないかなどの誤解交じりの期待を抱く人は残るはずだ。もしかしたら、医療従事者が患者・家族とのコミュニケーションで最も疲弊させられるのはこの点かもしれない。そして何より、実はこれらとは別の非常に大きな問題が浮上してくる可能性がある。それはlecanemabの投与対象のうちMCIは本人や周囲も気付かないことも多いため、後々に「もう少し早くlecanemabを使えていれば…」という事態が生じることだ。lecanemabというイノベーションは、これ以外にも予想もしなかった新たな課題を生むかもしれない。今回の承認にやや興奮しながらも、それと同じくらい不安も感じている。

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第169回 深刻なドラッグ・ラグ問題が起こるかも?アルツハイマー病治療薬・レカネマブ、米国正式承認のインパクト

あの市立大津市民病院院長がテレビにこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。7月7日金曜日の夜、テレビ東京系列の報道番組「ガイアの夜明け」のテーマは、「病院経営」でした。「病院を再生せよ!〜医療崩壊の危機との闘い〜」のタイトルで取り上げられていたのは、この連載でも何度も書いた、昨年医師の大量退職があった大津市民病院でした。「第121回 大量退職の市立大津市民病院その後、今まことしやかに噂されるもう一つの“真相”」で書いた、昨年赴任した日野 明彦院長の奮闘ぶり(院長なのに脳外科手術や外来診療も行っていました)を伝えており、それはそれで見ごたえはあったのですが、肝心の京都府立医大と京大との間の軋轢や、市立大津市民病院の医療圏での立ち位置については、あまり掘り下げていませんでした。最後、ヒューマンな感じで前向きに終わらせるのはテレビ番組の定石ですが、「第148回 相変わらず自己犠牲と滅私奉公で医療を行うコトー、日本の医療提供体制の“汚点”を描く映画『Dr.コトー診療所』」でも書いた、“赤ひげ”を未だに美化してそこに解決策があるかのように報じる、日本の医療報道(とくにテレビ)の限界も感じました。さて、今回は7月6日(現地時間)に米国食品医薬品局(FDA)が正式承認した、エーザイと米国バイオジェン社が共同開発したアルツハイマー病治療薬・レカネマブ(LEQEMBI)について書いてみたいと思います。レカネマブをFDAが正式承認レカネマブは、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβプラークに対するヒト化IgG1モノクローナル抗体で、アミロイドβの脳内への蓄積を抑制する効果があるとされる薬剤です。2023年1月6日、856例を対象とした第II相臨床試験で、レカネマブの投与によりアミロイドβ(Aβ)プラークの減少が確認されたことに基づいて、迅速承認されていました(「第143回 アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」FDA迅速承認を聞いて頭をもたげたある疑問、「結局高くつくのでは?」参照)。この時FDAは臨床効果を検証する確認試験のデータを要求。これに対してエーザイは、2022年11月に結果を発表していた第III相臨床試験(Clarity AD試験)のデータに基づく一部変更承認申請を行いました。FDAは確認試験により臨床上の利点が証明されたと判断、迅速承認から正式承認に切り替えたわけです。この正式承認によって、レカネマブはアルツハイマー病の進行スピードを緩やかにする効果を証明した世界初の医薬品となりました。症状の進行を7ヵ月半遅らせる効果先週、7月7日に急遽開かれたメディア・投資家説明会でエーザイの内藤 晴夫最高責任者(CEO)は「アリセプトの研究開始から約40年を経て、アルツハイマー病の根本病理に関わる治療薬を開発し、まず米国の患者に届けられるのは、製薬産業に身を置くものとして大きな喜びだ」と語りました。さらに、Clarity AD試験の主要評価項目、重要な副次評価項目、QOL関連評価項目を示し、「このすべての評価項目において、高度に統計的な有意差を持って有効性が示された。P値で0が4つ並んでるというのは、私も長くこの業界に身を置いているが、見たことも聞いたこともないような圧倒的な統計的有意性である」と、レカネマブの有効性を強調しました。主要評価項目となった認知機能と日常生活動作をみるCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of boxes)で、レカネマブの効果は対プラセボで27%の悪化抑制、P値=0.00005(小数点以下にゼロが4つ)でした。ちなみに、27%の悪化抑制とは、推計では症状の進行を7ヵ月半、遅らせる効果だそうです。適応はアルツハイマー病の治療で軽度認知障害(MCI)または軽度認知症の患者正式承認での適応は、迅速承認の時と同様、アルツハイマー病の治療で、軽度認知障害(MCI)または軽度認知症の患者とされました。また用法用量は、Aβ病理が確認された患者に対して、10mg/kgを2週間に1回点滴静注です。なお、投与開始前に、ベースライン時の脳MRI、および投与後のMRIによる定期的なモニタリング(5回目、7回目、14回目投与前)が必要とされます。最も一般的な副作用は、静注に関連する副作用、浮腫やヘモジデリン沈着を伴うアミロイド関連画像異常(ARIA)、頭痛とのことです。米国での薬価は年2万6,500ドル今回の承認で米国の高齢者の多くが加入するメディケアで保険適用が始まりました。なお、米国での薬価は年2万6,500ドル(約380万円)です。この価格は、同社が2021年に開発するも効果が限られ、正式承認されなかったアデュカヌマブ(「第62回 アデュカヌマブFDA承認、効こうが効くまいが医師はますます認知症を真剣に診なくなる(前編)」、「第63回 同(後編)」参照)の当初価格(5万6,000ドル)の約半額ですが、高額なことに変わりはありません。この高い薬価に対し、米国では医療費増につながる危険性がすでに指摘されています。7月8日付の日本経済新聞は、「米国の認知症患者は600万人以上いるとされる。非営利団体の米KFFは、高齢者の5%が今回の薬価で使用した場合、メディケアの支出が年89億ドルと予測。メディケア全体の保険料が増額される懸念がある」と書いています。日本承認後に待ち受ける2つの高いハードルさて、レカネマブの日本での承認はどうなるでしょう。エーザイは日本でも2023年1月に薬事承認を申請、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が優先審査の品目に指定しています。7月7日の説明会でエーザイの担当者は、「審査状況は非常に順調。レカネマブだけではなく、AβのPETの検査薬のMCIへの適応についても、順調に審査が進んでいる。9月までには承認を取得できると考えている」と話していました。日本でも9月までに承認され、年内には薬価が決まる可能性が高いとなると、アルツハイマー病の早期患者やMCIの患者が普通に使えるようになると考えてしまいますが、なかなかハードルは高そうです。一つは検査体制です。使用にはAβ病理所見の確認が必要で、そのためのPET検査または脳脊髄液検査を行わなければなりません。ARIAなどの副作用のチェックにも定期的なMRI検査が必要なため、処方できる医療機関は当面は相当限られそうです。もう一つは薬価です。米国で年間約370万円の薬価が付いたということは、日本の薬価も年間300万円前後になると予想されます。国内の認知症患者数は2025年には約730万人になると推定されており、アルツハイマー病の早期患者とMCI患者に限っても、レカネマブの対象になる患者は相当な数になると考えられます。根本治療薬ではなく、単に進行を遅らせるだけの薬剤に年間300万円も使う必要があるのか……。医療財政の面からも使用に関して何らかの制約が出てくる可能性もあります。そう考えると、レカネマブが日本で発売されても、使いたくても使えない認知症患者が多数出るという、深刻なドラッグ・ラグ問題が起こるかもしれません。アルツハイマー病患者の社会的価値を上げることと割増となる医療・介護費をどう考えるかもう1点気になるのは、以前にも書いた次の問題です。それは、「アルツハイマー病の進行を遅らせるということは、結果その人のアルツハイマー病の罹患期間を長くしてしまい、最終的にその人にかかる医療・介護費が高くついてしまうのではないか」ということです。エーザイCEOの内藤氏がいつも強調するように、アルツハイマー病やMCIの人のレカネマブ投与中の社会的価値(内藤氏はかつて「レカネマブの米国における治療を受ける患者1人当たりの社会的価値は年間3万7,600ドル」と話していました)は確かに上がり、介護者の負担も減るかもしれませんが、いずれは中等度・重度に移行していきます。罹患期間が長くなることで、1人当たりのトータルの医療費・介護費はこれまでよりも相当かさむ結果になると考えられます。アルツハイマー病患者の社会的価値を上げることと、一生で考えると割増となってしまうだろう医療・介護費をどう考えればいいのか……。医療経済学者にとっては、研究に値するかなり興味深いテーマだと思います。

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第165回 案から閣議決定までに一部変更?『骨太の方針2023』の医療関連項目をピックアップ

岸田 文雄政権が考える重要課題や来年度予算編成に関する基本的な方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針2023」(通称・骨太の方針2023)が6月16日に閣議決定された。時々、友人・知人から「あの『骨太の方針』って何?」とよく聞かれることがある。この大枠を決めているのは、中央省庁再編が行われた2001年1月、内閣設置法に基づきスタートした「経済財政諮問会議」である。首相を議長に経済関係閣僚と民間有識者で構成され、首相の諮問を受け、構成メンバーが経済全般や財政の運営方針、予算編成の基本方針を調査審議する。経済財政諮問会議の歴史と『骨太の方針』の謂れご存じのように日本では長らく政策立案や予算編成は官僚主導、もっと踏み込んで言えば財務省(旧大蔵省)が官庁の中のキング・オブ・ザ・キングスとして強大な権限を握り、政治家は彼らの担いだ神輿に乗っかるのが慣例だった。これに対して経済財政諮問会議の設置以降、首相の音頭で同会議の経済関係閣僚と民間議員などが政策を議論し、それをまとめたものを基本方針として閣議決定。この閣議決定後に各大臣が基本方針を所轄省庁に持ち帰り、方針内に記述された関連事項を省内で具体的に政策化したうえで再度同会議に持ち帰って発表する手続きとなった。つまり政治主導の政策・予算決定というわけだ。同会議のスタート時は省庁内での政策具体化の際に骨抜きにされる可能性は残ったが、たまたま本格スタート時の首相は、郵政三事業の民営化を掲げ、総裁選では「自民党をぶっ壊す」と叫んでいた政治主導の権化とも言われる小泉 純一郎氏だったこともあり、それなりに政治主導が発揮され、今に至っている。さらに付け加えると、2014年に安倍 晋三氏(故人)の政権下で、各省庁の幹部人事を決定する内閣人事局が内閣官房に設置されたことで省庁側は人事権で首根っこを押さえられた形になり、良くも悪くも政治主導がほぼ完成されている。ちなみになぜ通称で『骨太の方針』と呼ばれているかだが、同会議発足当初、森 喜朗首相の下で財務相を務めていた元首相の宮澤 喜一氏が同会議の議論を「骨太の議論」と呼んだことが始まりとされている。さてこの『骨太の方針』のより具体的な作成プロセスだが、毎年2~4月に同会議で民間委員の提言を受け、各省庁の大臣と民間委員の間で個別テーマについて議論が行われる。そこで『骨太の方針』の骨子案が作成され、5月中旬くらいに各省庁に降りる。各省庁ではその内容が実現可能かを関係各方面との調整や表現の修正検討を行い、それらが再び同会議に意見として提出される。また、同時期には政権与党の部会や関係する議員連盟などからもさまざまな政策提言が行われ、こうしたものも盛り込まれたうえで、『骨太の方針』の案が公表される。今回の『骨太の方針2023』は6月7日に案が公表された。その後は閣議決定までの間に与党の政務調査会などによる事前審査が行われるほか、各省庁や関係団体から与党の有力議員に働き掛けも行われる。その結果、一部文言などが修正された最終案が閣議決定されるという具合だ。「医療」「看護」「薬」「介護」のキーワードで検索、案と閣議決定文を比較さて今回の『骨太の方針2023』は、公表案から閣議決定文に至るまで実に100ヵ所以上の文言が修正されたと報じられている。医療・介護関係でどんな修正があったのだろうか?ざっくりとそれを調べてみた。比較結果を記述する前に簡単に概説すると、近年の『骨太の方針』は、第1章が経済状況の現状分析、第2章が国内を意識した経済成長戦略、第3章が国際的な視野に基づく経済成長戦略、第4章が財政運営方針と次年度以降の予算政策の4章立て。医療・介護については概ね第4章で触れられることがほとんどだ。これは言わずもがな、少子高齢化に伴う社会保障費の増大をどのように抑制するかに力点が置かれているからだ。さてどんなところが変更されていたのだろうか? 最初に目についたのは、第4章:中長期の経済財政運営の2.持続可能な社会保障制度の構築の項の「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の部分である。下線部分が閣議決定文に追記された。1人当たり医療費の地域差半減に向けて、都道府県が地域の実情に応じて地域差がある医療への対応などの医療費適正化に取り組み、引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、地域で安全に分娩できる周産期医療の確保、ドクターヘリの推進、救急医療体制の確保、訪問看護の推進、医療法人等の経営情報に関する全国的なデータベースの構築を図る。(骨太の方針 閣議決定文)周産期医療に関しては、おそらく岸田首相が唱える異次元の少子化対策を踏まえたものと考えられる。ちなみに「看護」というキーワードが骨太の方針で登場するのはここだけだ。たぶん案の段階で看護に関する言及が皆無だったことを受け、日本看護協会周辺が働きかけたのではないだろうかと予想している。すぐ後の医療DXに関する一文も軽微ながら変更が加えられている(下線部分)。医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、政府を挙げて医療DXの実現に向けた取組を着実に推進する。(骨太の方針 案)↓医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、医療DXの推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府を挙げて確実に実現する。(骨太の方針 閣議決定文)こちらは閣議決定文でより強い表現になっている。以前の本連載でも触れたが、今後の社会保障費増大を抑制するうえでデジタルヘルスの推進は必要不可欠なもの。そこに対する政府の決意の強さを表していると言えようか。今、揉めに揉めているマイナンバー関連では、マイナ保険証への一本化について否定的な世論調査結果も報じられているが、案、閣議決定文とも“2024年秋の健康保険証廃止”という一文は維持されており、それまでに現在の問題点を走りながら修正する意向なのだろう。実際、医療DXについて後に続く一文でも修正がある(下線部分)。※取り消し線部分:案にのみ記載その際、セキュリティを確保しつつ、医療DXに関連するシステム開発・運用主体の体制整備、電子処方箋の全国的な普及拡大に向けた環境整備、標準型電子カルテの整備、医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策等を着実に実施する。(骨太の方針 閣議決定文)案ではどちらかというと「従」の扱いだったセキュリティ対策が、医療DXで推進すべき各項目と並列的に記載されている。というか、個人的には「そりゃそうだろう」と言いたいところだが。さてその後の創薬などの医薬品関連でも文言の修正が見て取れた(下線部分)。創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置、全ゲノム解析等に係る計画の推進を通じた情報基盤の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備、大学発を含むスタートアップへの伴走支援、臨床開発・薬事規制調和に向けたアジア拠点の強化、国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理、小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する。これらにより、ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する。さらに、新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する。医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める。大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行うほか、OTC医薬品・OTC検査薬の拡大に向けた検討等によるセルフメディケーションの推進、バイオシミラーの使用促進等、医療上の必要性を踏まえた後発医薬品を始めとする医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直し、プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る。また、総合的な認知症施策を進める中で、認知症治療の研究開発を推進する。献血への理解を深めるとともに、血液製剤の国内自給、安定的な確保及び適正な使用の推進を図る。(骨太の方針 閣議決定文)補足することでより正確な記述にしたというのが率直な感想だが、個人的には「プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る」が付け加えられたところにやや目が留まった。実は『骨太の方針』案が公表されるのと同時期に田村 憲久元厚労相らのヘルステック推進議員連盟が加藤 勝信厚労相に提言の申し入れを行っているからである。与党での法案審査をより無難に通過させるためには、こうした議連の提言が盛り込まれることがよくある。一方、血液の安定確保に関しては、確保の方向性だけでなく、医療現場ではやや使い過ぎという声もある血液製剤の適正使用に踏み込んだのは、個人的にはなかなか細かいところに気を遣ったと感じている。さて、介護に関しては本文の修正はなかった。急速な高齢化が見込まれる中で、医療機関の連携、介護サービス事業者の介護ロボット・ICT機器導入や協働化・大規模化、保有資産の状況なども踏まえた経営状況の見える化を推進した上で、賃上げや業務負担軽減が適切に図られるよう取り組む。が、実は欄外の注釈が1ヵ所修正されている(下線部分)。「介護職員の働く環境改善に向けた取組について」(令和4年12月23日全世代型社会保障構築本部決定)では、現場で働く職員の残業の縮減や給与改善などを行うため、介護ロボット・ICT機器の導入や経営の見える化、事務手続や添付書類の簡素化、行政手続の原則デジタル化等による経営改善や生産性の向上が必要であるとされており、取組を推進する。(骨太の方針 閣議決定文)注釈ゆえに大した修正ではないとも言えるかもしれないが、わざわざ最終段階で修正したわけだから一定の意味があると考えるのが自然。そしてこの修正内容を見る限り、介護業界関係団体からの与党議員への働きかけの結果というよりは、厚労省あるいは財務省、あるいはデジタル庁から与党議員への働きかけの結果と解釈するのが妥当と考える。つまり業務効率化により強く国が関与してくる可能性があり、次回の介護報酬改定にこの部分で何らかの改革が行われる可能性を念頭に置いても良いかもしれない。いずれにせよこれらの答え合わせは下半期の“お楽しみ”というところだろうか。一応、はずすのを承知で個人的な予想をすると、もし文言通りにいかないことがあるとするならば、実は政権の強い意向が示されている健康保険証の廃止時期かな、と思っていたりもする。

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AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル、KRAS G12C、 RET融合遺伝子にも保険適用/理研ジェネシス

 理研ジェネシスは、2023年5月1日、「AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル」において、2023年3月22日付で7種のドライバー遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、KRAS、RET)を対象とするマルチプレックス検査として製造販売承認事項一部変更承認を取得し、2023年5月1日付で新たに保険適用されたと発表した。 同製品は、非小細胞肺癌の7種のドライバー遺伝子をカバーする、リアルタイムPCR法を原理としたコンパニオン診断薬である。今回のKRAS遺伝子変異(G12C)ならびにRET融合遺伝子を追加するシリーズ統合承認と、それに伴う新たな保険適用により、2023年5月1日以降、7種のドライバー遺伝子のマルチプレックス検査として、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子、BRAF V600E変異、MET exon14スキッピング変異、KRAS G12C変異、RET融合遺伝子を1回の測定で同時に検査し、13種の抗がん剤の適応判定の補助とすることへの保険適用が可能となる。●使用目的NSCLC患者への、以下の抗悪性腫瘍剤の適応を判定するための補助に用いる。・EGFR遺伝子変異:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ・ALK融合遺伝子:クリゾチニブ、アレクチニブ、ブリグチニブ・ROS1融合遺伝子:クリゾチニブ、エヌトレクチニブ・BRAF 遺伝子変異(V600E):ダブラフェニブとトラメチニブの併用投与・MET遺伝子 exon14スキッピング変異:テポチニブ・KRAS遺伝子変異(G12C):ソトラシブ・RET融合遺伝子:セルペルカチニブ

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添付文書改訂:フォシーガが左室駆出率にかかわらず使用可能に、アセトアミノフェンが疾患・症状の縛りなく使用可能に ほか【下平博士のDIノート】第119回

フォシーガ:左室駆出率にかかわらず使用可能に<対象薬剤>ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ錠5mg/10mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2023年1月<改訂項目>[削除]効能・効果に関連する注意左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。[追加]臨床成績左室駆出率の保たれた慢性心不全患者を対象とした国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果を追記。<Shimo's eyes>これまで、本剤は「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること」とされていましたが、この記載は削除され、左室駆出率を問わず使用可能となりました。これは、左室駆出率が40%超の慢性心不全患者を対象に行われた国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果に基づいた変更です。なお、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)も、2022年4月に左室駆出率にかかわらず使用可能となっています。アセトアミノフェン:疾患や症状の縛りなく「鎮痛」で使用可能に<対象薬剤>アセトアミノフェン製剤(商品名:カロナールほか)<承認年月>2023年2月<改訂項目>[削除]効能・効果下記の疾患ならびに症状の鎮痛頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛、変形性関節症[追加]効能・効果各種疾患および症状における鎮痛<Shimo's eyes>アセトアミノフェン製剤(カロナールほか)について、疾患や症状の縛りなく「鎮痛」の目的での使用が認められました。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を踏まえた変更です。欧米の先進諸国で使用できる医療用医薬品がわが国では保険診療において使用できない「ドラッグラグ」解消の1つであり、効能または効果は疾患名の列挙ではなく「各種疾患および症状における鎮痛」とすることが適切とされました。シルガード9:2回接種が追加され、接種無料に<対象薬剤>組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)(商品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ、製造販売元:MSD)<承認年月>2023年3月<改訂項目>[追加]用法・用量9歳以上15歳未満の女性は、初回接種から6~12ヵ月の間隔を置いた合計2回の接種とすることができる。[追加]用法・用量に関連する注意9歳以上15歳未満の女性に合計2回の接種をする場合、13ヵ月後までに接種することが望ましい。なお、本剤の2回目の接種を初回接種から6ヵ月以上間隔を置いて実施できない場合、2回目の接種は初回接種から少なくとも5ヵ月以上間隔を置いて実施すること。2回目の接種が初回接種から5ヵ月後未満であった場合、3回目の接種を実施すること。この場合、3回目の接種は2回目の接種から少なくとも3ヵ月以上間隔を置いて実施すること。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で3番目に発売されたHPVワクチンです。既存薬の1つである2価ワクチン(商品名:サーバリックス)は、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型の感染を、もう1つの既存薬である4価ワクチン(同:ガーダシル)は上記に加えて尖圭コンジローマなどの原因となる6型と11型の感染を予防します。本剤は、これら4つのHPV型に加えて、31型・33型・45型・52型・58型の感染も予防する9価のHPVワクチンです。本剤について、9歳以上15歳未満の女性に対する計2回接種の用法および用量を追加する一変承認が取得されました。これまでは計3回接種となっていましたが、接種回数が減ることで、ワクチン接種者や医療者の負担軽減が期待できます。また、既存の2価/4価ワクチンは定期接種の対象で、小学6年生~高校1年生相当の女子は公費助成によって無料で接種を受けることができますが、これまで本剤は任意接種で自費での接種でした。2023年3月7日の厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、小学校6年生~15歳未満までに対する9価HPVワクチンの2回接種も、4月1日から定期接種化することが決定され、自費から公費接種に移行する準備が進められます。エンハーツ:HER2低発現乳がんにも使用可能に<対象薬剤>トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ点滴静注用100mg、製造販売元:第一三共)<承認年月>2023年3月<追記項目>[追加]効能・効果化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳癌<Shimo's eyes>HER2低発現乳がんを標的にしたわが国初の治療薬となります。HER2低発現乳がんとはHER2陰性乳がんの新たな下位分類で、細胞膜上にHER2タンパクがある程度発現しているものの、HER2陽性に分類するほどの量ではない乳がんのことを指し、再発・転移のある乳がんの約50%を占めるとされます。本剤はこれまで有効な治療選択肢のなかったHER2低発現乳がんに対する薬剤となります。化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づく申請となりました。この試験では、再発・転移のあるHER2低発現乳がん患者557例(494例はホルモン受容体[HR]陽性、63例人はHR陰性)が、3週間ごとにT-DXdを投与する群(373例)と、医師の選択した化学療法を受ける群(184例)にランダムに割り付けられました。その結果、エンハーツ投与群では、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)のいずれにも改善が認められました。PFSとOSの中央値は、T-DXd投与群で9.9ヵ月と23.4ヵ月、医師の選択した化学療法群で5.1ヵ月と16.8ヵ月でした。なお、本適応追加に関連して、ロシュ・ダイアグノスティックスのがん組織または細胞中のHER2タンパク検出に用いる組織検査用腫瘍マーカーキット「ベンタナultraView パスウェーHER2(4B5)」が3月3日に一変承認され、HER2低発現の乳がん患者を対象とした本剤のコンパニオン診断薬として使用できることになりました。

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T-DXd、HER2低発現乳がんに適応拡大/第一三共

 第一三共は2023年3月27日、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、「化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果に係る国内製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 本適応は、2022年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO2022)で発表された、化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づくもので、2022年6月に国内製造販売承認事項一部変更承認申請を行い、優先審査品目に指定されていた。国内において初めてHER2低発現の乳がんを対象に承認された抗HER2療法となる。 なお、ロシュ・ダイアグノスティックスは、がん組織または細胞中のHER2タンパク検出に用いる組織検査用腫瘍マーカーキット「ベンタナ ultraView パスウェーHER2 (4B5)」の一部変更承認を2023年3月3日に取得している。HER2低発現の乳がん患者を対象としたT-DXdのコンパニオン診断薬として使用することができる。

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HER2・リキッド検査追加「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス」改訂/日本臨床腫瘍学会

 2023年3月、「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス:第5版」が刊行され、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)上で改訂のポイントが発表された。 最初に坂東 英明氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科)が全体的な説明を行った。 大腸がんにおける遺伝子検査は2010年にKRAS変異検査が登場したことを契機に、2018年にはRASKET-B(RAS/BRAF変異検査)、2020年には血液を用いたRAS変異検査が保険適用となり、2022年にはHER2検査(免疫染色、FISH)、MMR検査(免疫染色)、そして2023年にはBRAF V600E検査(免疫染色)が保険適用となるなど、目まぐるしく新たな検査が登場している。 大腸がんの診療指針としては、大腸癌研究会より発刊されている「大腸癌治療ガイドライン」が2022年に改訂され広く用いられているが、こちらは日本と海外との診療の質や考え方に違いを吟味した上で日本独自の臨床データを重視して治療指針を策定することを目的としている。一方、本ガイダンスは「現在保険適用されている検査をどのように実施し治療に反映するのが適切か」「新規検査技術の現状と今後の展望について情報を提供する」ことを目的に作成されており、ガイドライン作成の手順や形式にとらわれ過ぎることなく、今後の展望や提言なども織り込んでいるという。 「体外診断用医薬品(IVD)とコンパニオン診断薬(CDx)を中心として、多くの検査を分類して整理した概念図はとくに自信作である。新たな診断薬が薬事承認・保険適用される過程をご理解いただくことで、ガイダンスで推奨することの重要性もおわかりいただけると考えている」(坂東氏)。 続いて、今回の大きな改訂ポイントとして「HER2検査」「包括的ゲノムプロファイリング検査・リキッドバイオプシー」が解説された。改訂ポイント1:HER2検査 「大腸がんにおけるHER2検査」については、澤田 憲太郎氏(釧路労災病院 腫瘍内科)が発表した。 今回追加されたのは、新たに保険承認されたHER2陽性大腸がんに対する抗HER2療法とその検査に関する内容。この承認は、HER2陽性の切除不能な進行・再発大腸がんに対し、抗HER2抗体ペルツズマブとトラスツズマブの併用療法の有効性・安全性を評価した医師主導治験・TRIUMPH試験の結果に基づくもので、併用療法は奏効率26.6%、病勢制御率 66.7%という結果を示し、血液を用いたリキッドバイオプシー検査でも高い有効性が示された。 ガイダンスにおける関連事項の記載は以下のとおり。・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗HER2療法の適応判定を目的として抗HER2療法前にHER2検査を実施する→強く推奨する・切除不能進行再発大腸がんにおけるHER2検査において、IHCを先行実施し、2+と判定された症例に対してはISH検査を施行する。→強く推奨する HER2検査実施のタイミングは、「抗HER2療法の施行前の適切なタイミング」とされ、「大腸癌治療ガイドライン2022年版」においては一次治療前のRAS/BRAF遺伝子検査およびMSI検査が推奨されていることから、「複数回の薄切が主要検体の損失につながることを考慮すると、HER2検査もこれらの検査と合わせて一次治療開始前に行うことも妥当と考える」と記載された。現在2種類あるHER2の検査方法については、まずはコストの低いIHC法を試み、IHC 2+と判定された場合にFISHで検証する手順が推奨されている。改訂ポイント2:ゲノム検査・リキッドバイオプシー 2つめの改訂ポイントとして「包括的ゲノムプロファイリング検査・リキッドバイオプシー」について山口 享子氏(九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科)が、今回新たに承認されたリキッドバイオプシーによるゲノム検査を中心に、ポイントを解説した。 ガイダンスにおける関連事項の記載は以下のとおり。・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として組織検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。→強く推奨する・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として、血漿検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。→強く推奨する・治癒切除が行われた大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、微小残存腫瘍(MRD)検出用のパネル検査を実施する。→強く推奨する 「解析対象遺伝子、各遺伝子異常に対する薬事承認の有無、生殖細胞系列変異の解析可能性など、パネル検査ごとで異なる点が留意する必要がある。リキッド検査の優位点は侵襲が少ないこと、現時点でのゲノムプロファイルが得られること、結果判明までの時間が短いことが挙げられる。一方、欠点としては腫瘍量が十分でない場合は検出できない可能性がある、CHIP(クローン性造血)による偽陽性の頻度が高まる、がん種や病態による偽陰性の可能性があることだ」(山口氏)。 また、MRD(微小残存病変)検出用のパネル検査については、その有用性をみる臨床試験が現在多数進行中であること紹介したうえで、「現時点では保険承認されたMRD検出用パネル検査はないものの、臨床応用の可能性を発信するため、ガイダンスでは強い推奨とした」と述べた。「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版」編集:日本臨床腫瘍学会定価:2,420円発行日:2023年3月20日B5判・116頁・図数:11枚金原出版

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第20回日本臨床腫瘍学会の注目演題/JSMO2023

 2023年2月16日、日本臨床腫瘍学会はプレスセミナーを開催し、会長の馬場 英司氏(九州大学)らが、第20回学術集会(2023年3月16~18日)の注目演題などを発表した。 今回のテーマは「Cancer, Science and Life」で、科学に基づいた知⾒ががん医療の進歩を支え、患者さんが満⾜できる⽣活、実りある⼈⽣を送る助けになることを目的とする。演題数は1,084であり、うち海外演題数は289と過去2番⽬の多さになる。プレジデンシャルセッション プレジデンシャルセッションでは発表者の他に、国内外の専門家がディスカッサントとして研究成果の意義を解説する。演題は学術企画委員会が厳正に審査を行い、全分野より合計19演題が選定された。<呼吸器>2023年3月16日(木)15:10〜17:101.既治療の進行・再発非小細胞肺癌に対するニボルマブ(NIV)対NIV+ドセタキセルのランダム化比較第II/III相試験:TORG1630 古屋 直樹氏(聖マリアンナ医科大学病院呼吸器内科)2.First Report of Cohort3 and Mature Survival Data From the U31402-A-U102 Study of HER3-DXd in EGFR-Mutated NSCLC  林 秀敏氏(近畿大学医学部腫瘍内科)3.完全切除されたII-IIIA期の非扁平上皮非小細胞肺癌に対するPEM/CDDPとVNR/CDDPを比較する第III相試験:JIPANG最終解析 山崎 宏司氏(国立病院機構九州医療センター呼吸器外科)4.Adjuvant osimertinib in resected EGFR-mutated stageII-IIIA NSCLC:ADAURA Japan subgroup analysis 釼持 広知氏(静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科)5.Sotorasib versus Docetaxel for Previously Treated Non-Small Cell Lung Cancer with KRAS G12C Mutation:CodeBreaK 200 Phase3 Study 岡本 勇氏(九州大学大学院医学研究院呼吸器内科学)<その他がん>2023年3月17日(金)8:20〜10:201.MOMENTUM:Phase3 Study of Momelotinib vs Danazol in Symptomatic and Anemic Myelofibrosis Patients post-JAK Inhibition Jun Kawashima氏(Sierra Oncology, a GSK company, San Mateo, CA, USA)2.Brexucabtagene Autoleucel in Relapsed/Refractory Mantle Cell Lymphoma(R/R MCL) in ZUMA-2:Durable Responder Analysis  Javier Munoz氏(Banner MD Anderson Cancer Center, Gilbert, AZ, USA)3.Pembrolizumab+chemoradiation therapy for locally advanced head and neck squamous cell carcinoma(HNSCC):KEYNOTE-412 田原 信氏(国立がん研究センター東病院頭頸部内科)4.APOBEC signature and the immunotherapy response in pan-cancer Ya-Hsuan Chang氏(Institute of Statistical Science, Academia Sinica, Taipei, Taiwan)5.FGFR2融合/再構成遺伝子を有する肝内胆管がん患者に対するFutibatinibの第2相試験:FOENIX-CCA2試験の日本人サブグループ解析結果 森実 千種氏(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科)<乳腺>2023年3月17日(金)16:25〜18:051.Overall survival results from the phase3 TROPiCS-02 study of sacituzumab govitecan vs chemotherapy in HR+/HER2-mBC Hope Rugo氏(Department of Medicine, University of California-San Francisco, Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center, San Francisco, CA, USA)2.HER2低発現の手術不能又は再発乳癌患者を対象にT-DXdと医師選択治療を比較したDESTINY-Breast04試験のアジアサブグループ解析 鶴谷 純司氏(昭和大学先端がん治療研究所)3.T-DM1による治療歴のあるHER2陽性切除不能及び/又は転移性乳癌患者を対象にT-DXdと医師選択治療を比較する第III相試験(DESTINY-Breast02) 高野 利実氏(がん研究会有明病院乳腺内科)4.Phase1/2 Study of HER3-DXd in HER3-Expressing Metastatic Breast Cancer:Subgroup Analysis by HER2 Expression 岩田 広治氏(愛知県がんセンター乳腺科部)<消化器>2023年3月18日(土)9:45〜11:451.切除不能局所進行食道扁平上皮癌に対する化学放射線療法後のアテゾリズマブの有効性・安全性をみる第II相試験:EPOC1802 陳 勁松氏(がん研究会有明病院消化器化学療法科)2.PD-1 blockade as curative intent therapy in mismatch repair deficient locally advanced rectal cancer Andrea Cercek氏(Memorial Sloan Kettering Cancer Center, USA)3.RAS野生型切除不能進行再発大腸癌に対するm-FOLFOXIRI+cetuximab vs. bevacizumabの生存解析:DEEPER試験(JACCRO CC-13) 辻 晃仁氏(⾹川⼤学医学部臨床腫瘍学講座)4.PARADIGM試験における早期腫瘍縮小割合および最大腫瘍縮小割合に関する検討 室 圭氏(愛知県がんセンター薬物療法部)5.Efficacy and safety of fruquintinib in Japanese patients with refractory metastatic colorectal cancer from FRESCO-2  小谷 大輔氏(国立がん研究センター東病院消化管内科) また、プレスセミナーでは、他の注目演題として下記が紹介された。がん免疫療法ガイドライン 下井 ⾠徳氏(国⽴がん研究センター中央病院)によるがん免疫に関するレクチャーの後、3月発刊予定の「がん免疫療法ガイドライン第3版」のアウトラインが紹介された。昨今注目されているがん免疫療法において、医療者へ適切な情報を提供するためのがん種横断的な治療ガイドラインの改訂版である。学術大会では委員会企画として、第3版改訂のポイント、新しいがん免疫療法、がんワクチン療法と免疫細胞療法のエビデンスが解説される。委員会企画4(ガイドライン委員会2)第1部:がん免疫療法ガイドライン改訂第3版の概要3⽉16⽇(⽊)15:50〜17:20(第1部 15:50〜16:35)がんゲノム医療 田村 研治氏(島根大学医学部附属病院)によって、がん治療におけるゲノム医療の流れや課題などが紹介された。学術大会では、マルチコンパニオン検査とCGP検査の使い分けについて解説した上で、近未来の「がんゲノム医療」はどうあるべきかを専門医が討論する。解決すべき問題の例として「コンパニオン診断薬として承認されている遺伝子異常と、ゲノムプロファイリング検査としての遺伝子異常を同じ遺伝子パネルで検査すべきか?区別すべきか?」などが挙げられた。シンポジウム8遺伝子異常特異的かつ臓器横断的な薬剤の適正使用、遺伝子パネルの在り方とは?3月16日(木)8:30〜10:00患者支援の最前線 佐々木 治一郎氏(北里大学医学部附属新世紀医療開発センター)によって、わが国におけるがん患者支援の現状が紹介された。より総合的ながん患者支援が求められる中、支援活動の質の担保や最低限のルールの確立などのための教育研修が必要となっている。学術大会では、国、学会、NPOの演者ががん患者支援者への教育研修について発表・議論される。会長企画シンポジウム4患者支援者の教育研修:我が国における現状と課題3月16日(木)14:00〜15:30デジタル化が進めるがん医療 佐竹 晃太氏(日本赤十字医療センター)によって、治療用アプリとヘルスケアアプリとの違い、実臨床における活用方法、国内における開発状況などが紹介された。治療用アプリの活用により、重篤な有害事象の減少、QOLの改善、生存期間の改善などが期待されている。学術大会では、新しい治療アプローチの昨今の動向や、臨床導入する上での潜在的課題について議論される。シンポジウム4将来展望:予防・治療を目的としたモバイルアプリの開発3月16日(木)15:50~17:20

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第141回 医師免許を持った映画監督、大森一樹氏を偲ぶ。青春映画の名作『ヒポクラテスたち』を今観て思うこと

1980年度「キネ旬」日本映画第3位の名作こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いよいよ年末です。年始年末の休暇、毎年私はシリーズものの古い映画をまとめて観直すことにしています。『ゴッドファーザー』(監督:フランシス・F・コッポラ)、『インファナル・アフェア』(監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック)、『仁義なき戦い』(監督:深作 欣二)などをこれまで観てきました。今年は何を観直そうかと思案しているのですが、ディズニープラスで配信していた『マンダロリアン』(『スター・ウォーズ』シリーズの外伝です)が意外と面白かったので、『スター・ウォーズ』のエピソード4〜5(最初に発表されたシリーズ。監督:ジョージ・ルーカス他)を観直してみようかと思っています。ちなみに『マンダロリアン』は、日本の昔の時代劇ドラマ『子連れ狼』のようで、西部劇、時代劇好きにもお薦めです。ということで、今回は11月12日に急性骨髄性白血病のため死去した映画監督、大森 一樹氏について書いてみたいと思います。大森氏は1952年生まれ、京都府立医科大学を卒業し医師免許を持った映画監督でした。日本の映画監督で医師出身というのは、私が知る限り大森氏だけだと思います。その大森氏、高校時代から映画制作を開始し、京都府立医大在学中には映画自主上映グループを結成、本格的に映画を作っていました。1978年、26歳の時に『オレンジロード急行』で商業映画デビューを果たし、1980年の『ヒポクラテスたち』で評価を確立しました。1981年には村上 春樹の処女作『風の歌を聴け』を小林 薫主演で映画化しています。なお、『ヒポクラテスたち』は1980年度キネマ旬報ベストテン日本映画部門第3位に輝いています。大森氏は比較的若い世代には、『ゴジラvsビオランテ』(1989年)や『ゴジラvsキングギドラ』(1991年)の監督・脚本を担当したことでも知られますが、私は個人的には『ヒポクラテスたち』が大森氏の代表作だと思います。70年代後半の医学生を描いた青春群像劇『ヒポクラテスたち』は大森氏自身の青春時代、70年代後半の医学生を描いた群像劇です。簡単にあらすじを紹介しましょう。京都の洛北医科大学の最終年に在学している荻野 愛作(古尾谷 雅人)はポリクリと呼ばれる臨床実習の真っ最中。同じ班には既に妻子持ちの加藤 健二(柄本 明)、有名産婦人科病院の息子、河本 一郎(光田 昌弘)、秀才の大場修(狩場 勉)、野球少年の王 龍明(西塚 肇)、紅一点の木村 みどり(伊藤 蘭)がいます。彼の住まう寮には、留年を続ける牢名主のような本田 俊平(斎藤 洋介)をはじめとした一癖も二癖もある先輩後輩がくすぶっています。学生運動は既に下火ですが、森永砒素ミルク事件や医師の税優遇問題などで左翼社会運動に身を染める南田 慎太郎(内藤 剛志)が印象的です。舞鶴出身の荻野は、中原 順子(真喜志 きさ子)という大学の図書館で働く高校時代の同級生と付き合っています。産婦人科の実習真っ最中に、順子は妊娠に気づきます。研究室から妊娠検査薬を盗み出し確認後、京都市内の小さな産院で堕胎をします。しかしその後、順子の容態は急変し、結局、郷里に帰ることを余儀なくされます。手術の見学や出産の実習、妊婦への問診や患者への直診など、彼らは医師になるための階段を一歩一歩上っていきますが、愛作はまだ自分がどんな医師になるのか、何科を専門とするのかさえ明確に決められません。また、木村 みどりは現場での体験に耐えられず、医師になることをやめると宣言します。それでも国家試験を目指す愛作に、ある知らせがもたらされ、愛作は次第に精神的に追い詰められて行きます。出世作となったこの映画のこの役が彼の将来を予言かこの映画、その後、映画やテレビで活躍する多くのバイプレーヤーがたくさん出演し、映画全体を引き締めています。さらに、病院専門の盗人役に鈴木 清順氏(映画監督)、小児科の教授に手塚 治虫氏(漫画家、大阪大学医学部出身)、精神科の先生に北山 修氏(精神科医でミュージシャン、京都府立医大出身)と特別出演もバラエティーに富んでいます。ロケ地は大森氏の母校である京都府立医大や同校の橘井寮などが使われています。70年代半ば~後半頃の雰囲気が色濃く漂っており、今見ると古臭さも感じられますが、モラトリアム期の若者に特有の一瞬の狂気や挫折感は、40年以上経った今観ても、共感するところが多いと思います。伊藤 蘭は、1978年にキャンディーズが解散してからしばらく沈黙しており、本作が芸能界復帰作となり、本格的に女優の道を歩むきっかけとなりました。なお、彼女が「蘭」というタバコを吸うシーンもあります。主役の古尾谷 雅人は70年代、日活ロマンポルノなどで活躍していましたが、この作品でメジャーな存在となりました。堂本 剛が主演したテレビドラマ、『金田一少年の事件簿』(1995年)の剣持 勇警部役はハマリ役でした。この映画では、図体ばかりでかくて気持ちが優しい青年を好演していますが、出世作となったこの役が彼の将来を予言したかのように、2003年、自ら命を断っています。鴨川の川べりで青春に苦悩していた医師たちの末路は?この映画には無資格堕胎、森永砒素ミルク訴訟、24時間年中無休診療で医療界に旋風を巻き起こしていた徳洲会など、1980年前後の医療事件ネタも盛り込まれています。京都府立医大については、本連載では今年、「第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚」などで、同大出身元理事長によるパワーハラスメント事件を取り上げました。前理事長は大森氏が大学に在籍していた時代より若干後の世代と思われますが、仮に鴨川の川べりで青春に苦悩していた医師たちの末路があの事件だとすると、少々情けなさ過ぎるオチだなとこの映画を観直して思った次第です。『ヒポクラテスたち』は、amazonプライムなどの配信サービスで観ることができます。日本の医療映画としても歴史に残る名作です。未見の方はぜひ観てみて下さい。

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AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネル、KRAS G12C変異肺がんのコンパニオン診断薬として承認/理研ジェネシス

 理研ジェネシスは、2022年11月14日、AmoyDx肺癌マルチ遺伝子PCRパネルが、KRASG12C変異陽性に適応する薬剤のコンパニオン診断薬の承認を取得したと発表した。 これにより同製品は、がん化学療法後に増悪したKRASG12C変異陽性の切除不能進行・再発非小細胞肺がん患者に対するソトラシブ(商品名:ルマケラス)の適応判定の補助に使用可能となる。 保険適用後の同製品は、EGFR、ALK、ROS1、BRAFV600E、METexon14スキッピング、KRASG12Cに関連する12種の抗悪性腫瘍薬の適応判定の補助が可能となる。

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第14回 インフルエンザが流行すると、結局発熱外来が逼迫する構図

インフルエンザシーズンにおける混乱さて、インフルエンザシーズンとCOVID-19の第8波がやって来るのかどうかが、喧々囂々と議論が交わされています。もちろん、波がやって来ないに越したことはないのですが、どの専門家も「来るだろう」と言っています。次に到来するウイルスが、BA.5程度の変異株であれば、広くワクチン追加接種を行うことで、死亡者数を少なくすることができると思われます。諸外国のように、さらに感染者が増えてくると、ハイブリッド免疫を有する人が多くなるので、そこまでインパクトのない波になるかもしれません。現在多くの自治体では、新型コロナの自己検査を行い、その結果が陽性なら陽性者登録センターに連絡する形になっていますが、インフルエンザシーズンにおいて新型コロナが陰性であれば、皆さんどうするでしょうか?引き続き高熱が出ていたら、インフルエンザの検査をしたいと思う人が多いかもしれません(個人的には、このあたりをどうガイダンスするかだと思っていますが…)。COVID-19の自己検査が陰性であった場合、熱がある人はおそらく発熱外来に通されることになるでしょう。インフルエンザとCOVID-19の交差が起こってしまいますが、この動線を分離できる医療機関はほとんどないと思います。インフルエンザの抗原検査キットのOTC化を現場として1つ問題提起したいのは、インフルエンザの自己検査ができるようにしてほしいという点です。抗原定性キットをドラッグストアなどで購入できるよう、是非とも解禁していただきたい。COVID-19の抗原定性検査キット市販は特例的に承認されたものですが、インフルエンザ抗原検査キットを承認しないというのは、いささか不自然です。2つとも同じ検査法ですから、患者さんにとってテクニカルに検査がしにくいということもありません。自己検査は十分可能でしょう。また、現在は抗原定性検査に、COVID-19とインフルエンザの両方が測定可能な同時検査キットが登場しており、すでに薬事承認を受けています(表)1)。これが一般的に広く普及すれば、1回のぬぐい液で2つのウイルスを調べることが可能です。画像を拡大する表. COVID-19とインフルエンザの両方が検査可能な薬事承認抗原定性検査(参考文献1より筆者作成)規制改革推進会議 第8回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループでは、厚生労働省とこのようなやり取りが行われています(一部日本語表現を変更)2)。「冬を念頭に置く中で、今度はインフルエンザのほうも出てくる可能性があるのではないかと思っております。インフルエンザについても抗原検査キットと一緒に検査できるようなキットも考えうるところだと思います。コロナに比べると、現時点では感染症法上の位置付けとしても、エビデンス上もインフルエンザのほうがまだリスクが低いということだと思います。そうであるとすると、インフルエンザに関してもOTC化をすることも考えられるのではないかと思いますが。」という専門委員の質問に対して、厚労省(厚生労働省大臣官房審議官)は、以下のような回答をしています。「今回のコロナの検査キットOTC化というのは現下のパンデミックの状況に鑑み、特例的に対応を進めております。インフルエンザのキットのOTC化というのは、現時点で予定はしておりません。」参考文献・参考サイト1)厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の体外診断用医薬品(検査キット)の承認情報2)内閣府 規制改革推進会議 第8回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ 議事概要

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コロナ抗原検査キットがOTC化、ネット通販も可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第96回

新型コロナウイルスの抗原検査キットの取り扱いについては、薬局はいろいろと振り回されましたね。研究用・医療用の抗原検査キットの混乱や不足の一方、行政や薬局による無料配布などもあり、問い合わせは多かったのではないでしょうか。今回、その抗原検査キットはOTC化が承認され、すでに発売が開始されました。スイス製薬大手ロシュ傘下で検査薬事業を手がけるロシュ・ダイアグノスティックス(東京・港)は24日、新型コロナウイルスの感染を検査する抗原検査キットについて一般用医薬品(OTC)としての承認を得たと発表した。国内でOTCとして承認されたコロナ検査キットは初めて。これまで薬局や医療機関でしか扱えなかったキットをドラッグストアやネットで販売できるようになる。(2022年8月24日付 日本経済新聞)今回、OTCとして抗原検査キットが初めて承認を得ました。現時点で4製品が承認され、すでに発売されている製品もあります。と言っても、まったく新しい製品が発売されるわけではなく、これまで「医療用」として承認されていた抗原検査キットが「一般用」の抗原検査キットとして再承認され、第1類医薬品として販売されることになります。従来の薬局での対面販売に加え、ドラッグストアやインターネットでの販売が可能になるため、患者さんにとっては手に取りやすくなるでしょう。皆さんご存じのとおり、検査キットの中には「研究用」と称し、一般の方にはむしろきちんとしているように見えて、実は承認を得ていない製品が巷にあふれていることが問題になっています。昨年から何度も事務連絡が出され、「研究用とされている検査キットは未承認であり、その質が保証されていないので販売しないこと」「研究用検査キットと医療用検査キットの違いや購入希望者は薬剤師に相談すること」などの注意喚起がなされてきました。しかし、検査キットが不足して多くの人が検査できないという混乱の中で、やむなく販売した薬局もあったのではないでしょうか。一方、抗原検査キットが実は不足していないのか、薬局で無料配布を行っている地域もあります。都道府県から配給される際に「配布するだけでよい」と言われているそうですが、だったら薬局じゃなくても駅とか空港とか、はたまたティッシュを配るように街中で配布してもよかったのでは…なんて思ってしまいます。これに対しても、問い合わせやクレームなどで手を焼いた薬局は多かったのではないでしょうか。8月末に開催された内閣府の規制改革推進会議医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ(WG)では、依然として研究用が流通していて、薬剤師による説明を受ける手間を煩わしく思ってあえて研究用を購入する人がいる可能性があることなどから、第2類医薬品としてはどうか、などの議論が交わされました。実際、厚生労働省が2022年6月に行った調査では、医療用と研究用の2種類があることを知らない人が60%いたという調査報告もあり、課題が大きいこともわかります。え?また変わる可能性があるの?というイヤな予感がしますね。承認前にこの問題を解決してほしかったのですが、残念ながら抗原検査キットを巡る混乱はまだ続きそうです。

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第6回 市販の抗原検査キット陽性をどう扱う?

ついに抗原検査キットがネット解禁へ以前からドラッグストアで購入できた抗原検査キットは、ご存じのように抗原定性検査を指します。「体外診断用」と記載されたものが、厚労省が承認しているキット(図)で、未承認のキットは「研究用」と記載されています。参考文献・参考サイト厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の体外診断用医薬品(検査キット)の承認情報厚生労働省 医療用抗原検査キットの取扱薬局リスト(令和4年8月9日18:00時点)画像を拡大する図. 薬事承認を受けた抗原検査キット(筆者作成)厚労省が承認した抗原検査キットを無料配布し始めている自治体もあります。それでもなお、品薄の状況であることから、政府はついにネットでの販売を解禁する方向へ舵を切るようです。抗原検査キット陽性でCOVID-19と確定してもよいか?承認された「体外診断用」の抗原検査キットを用いた場合、COVID-19と自己診断して療養することが可能です。ネットで登録できるシステムを各自治体が立ち上げています。ただ、ネット通販などで手に入る「研究用」の抗原検査キットを用いて診断しても、登録できない仕組みになっています。抗原検査キットでCOVID-19と自己診断する場合、虚偽の報告があると、とくにお金にかかわる部分でトラブルになるかもしれません。それゆえ、あまり手続きを簡略化し過ぎると、それはそれでまずい。そのため、一部の自治体は、かなり厳格に判定しています。たとえば以下のような条件です。有症状検査結果がわかる画像を添付本体に油性マジック等で氏名と検査日を記入(検査キット本体に直接記入)薬事承認された医療用抗原検査キットを利用されていること医師のオンライン面談後、登録とはいえ、医師のオンライン面談と登録がもはや難しい自治体もあり、自己登録システムでスピーディーに承認している自治体もあります。問題は、自己登録に不備がある場合、それをいちいち「検査に不備があります」と指摘して差し戻す作業自体が、結局行政の仕事量を増やすことにつながりかねないということです。東京都では、Googleフォームを通した申請になるため、ある程度ネットに慣れた人でないと登録は難しいかもしれません。また、1日3,000件までの申請しか受理していないため、これが今後の主たる手続きになるわけではなさそうです。このスキームには、陽性を装うことで何か詐欺に悪用できるような「コスパ」がそこまでないと思うので、甘めに判定してもそんなに金銭トラブルは多くないと予想されますが…果たして。ちなみに、市販の抗原検査キット陽性ということで発熱外来を受診した場合、それが未承認の「研究用」のキットであれば、医療機関でPCR検査や抗原定量検査を再度実施すべきと個人的に考えます。

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コロナPCR検査等の誤判定、日本での要因は?

 新型コロナウイルス感染症の診断において、PCRをはじめとする核酸検査には高い信頼性が求められており、厚生労働省では、その測定性能や施設の能力の違いの実態把握と改善を目的として、2年にわたり「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等にかかる精度管理調査業務」委託事業を行っている。今回、令和3年度調査結果について報告書がまとめられ、日本臨床検査薬協会(臨薬協)と日本分析機器工業会(分析工)がメディア勉強会を開催。同調査を実施、報告をとりまとめた宮地 勇人氏(新渡戸文化短期大学 副学長)が講演した。<外部精度管理調査の概要>実施期間:2021年11月7~25日参加施設(1,191施設):病院74.1%、衛生検査所14.7%、診療所3.8%、保健所3.1%、地方衛生研究所2.0%、検疫所1.6%など(自費検査の実施は、診療所 [93.3%]および臨時衛生検査所[80%]で多く、陰性証明書の発行を行っている施設は診療所[88.9%]で多い傾向がみられた。測定原理はリアルタイム PCR 法 が73.9%と最も多く、その他LAMP法、SmartAmp法などさまざまな等温核酸増幅法が用いられていた。プール法の実施施設は6.4%だった)。評価方法:陰性を含む濃度の異なる6試料について正答率を評価し、施設カテゴリーや測定法(機器・試薬およびその組み合わせで10施設以上で実施されていた21パターン)ごとに解析、誤判定要因の特定を行った。PCR等の偽陰性は医療機関で多い傾向、要因として挙がったのは 全体として、試料別にみた正答率は93.0~99.4%と総じて良好だったが、98施設(延べ139検体)で誤判定(偽陽性・偽陰性)があり、主に医療機関(病院・診療所)であった。試料別正答率を施設カテゴリー別にみると、地方衛生研究所や検疫所(100%)、保健所(96.7~100%)で高かったのに対し、病院(91.9~99.7%)や診療所(83.3~100%)で低かった。とくに診療所では、PCR検査等の偽陰性結果が比較的多くみられた。 偽陰性結果について詳細をみると、測定機器に依存する傾向がみられ、SmartGene(19施設)、TRCReady(26施設)、ミュータスワコーg1(19施設)使用施設に多く認められた(計64施設)。その他の要因を検討するため、上記測定機器を使用していた64施設を除く34施設で特性をみると、測定者に臨床検査技師や認定微生物検査技師等の認定資格なしの施設の割合が高く、導入時の性能評価未実施の施設の割合が高かった。 さらに34施設に対して誤判定要因についてヒアリング調査を行ったところ、「検出限界の未確認・再現性不良の可能性」といった試薬・機器に依存するものが22施設と最も多かった一方、測定前後の作業手順等に関わる下記5点も要因となっていることが明らかになった。・試料の取り違い(5施設15件)・陽性/陰性の判定指標の不適切さの可能性(3施設4件)・キャリーオーバー汚染(2施設2件)・測定試薬の管理の不適切さの可能性(1施設2件)・判定結果の転記ミスの可能性(1施設1件) 上記のうちとくに試料の取り違いについて、宮地氏は「1つの取り違いで必ず複数の誤判定が生じてしまう。今回の調査のように、事前に準備をしている状況でも起きているということは、大量検体が舞い込むような状況下ではさらに誤判定リスクが増していると懸念される」と指摘した。 そのほか今回の調査では、輸送培地に含まれる塩酸グアニジンが偽陰性リスクにつながりうることが示された。検査の拡大により、輸送培地として塩酸グアニジン溶液を含有して感染リスクを最小化した製品(SARS-CoV-2不活化試薬、PCRメディアSG、輸送用スワブキットなど)が使用されるようになっており、塩酸グアニジンが残存しているとPCR反応阻害による偽陰性リスクがあるため、使用している核酸抽出法がその影響を除外することを確認する必要がある。コロナ誤判定にスワブの種類は日本では影響なし スワブの素材により、ウイルス回収量が異なるということが世界的に指摘されている。今回の調査では、ウイルス回収量が最も高く臨床的感度が高いと報告されているナイロン製をはじめ、ポリアミド製、ポリウレタン製、ポリエステル製などの多様な素材の綿球が使用されていたが、明らかな差は認められなかった。宮地氏はこの結果から、「日本で一般的に使われているものは広く支障なく使えることが明らかになった。サプライ停滞時には、代替製品を使うことが可能」とした。 プール法の精度については、54施設を対象に3試料(5プール)の外部精度管理調査が実施された。正答率は94.4~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。プールの個別試料の正答率は96.1~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。計6施設で誤判定があり、その施設カテゴリーとしては病院等が多く、要因としては、・測定性能の確保(検出限界、再現性)・作業手順(検体の取り違い)・測定システム(ダイレクトPCRの使用)のほか、上述の6試料についての外部精度管理調査での誤判定ありの施設と、プール法での誤判定ありの施設に重複がみられた。 厚労省では、令和2年度調査の結果を踏まえて「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等における精度管理マニュアル」を公開しているが、今回の調査で同マニュアルを利用していると答えた施設は39.2%と低く、とくに病院(32.6%)、診療所(28.9%)で低かった。マニュアルは今回の調査結果も反映して改訂されており、誤判定要因とその対策についてもまとめられている。

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イルミナ、包括的がんゲノムプロファイリングテストを申請

 イルミナは、2022年5月10日、厚生労働省にTruSight Oncology Comprehensiveパネルシステムの製造販売承認申請を行った。 同パネルシステムは、固形悪性腫瘍患者のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍サンプルから抽出した核酸を検体として、NextSeq 550Dxシステムを用いたターゲットシーケンスにより517遺伝子の変異を検出する包括的がんゲノムプロファイリング検査キット。 DNAからは塩基変異、多塩基変異、挿入、欠失および遺伝子増幅を、RNAからは遺伝子融合およびスプライスバリアントを検出する。コンパニオン診断薬(CDx)についても、順次追加される予定。  同ゲノムプロファイリング検査は2022年3月の欧州での最初の発売に続き、日本で製造販売承認申請を行った。

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第97回 「ブースター効果は5ヵ月」報道前に、メーカー幹部らが保有株を大量売却

新型コロナワクチンのブースター接種による重症化予防効果は、5ヵ月後に約30%に低下するという米疾病予防管理センター(CDC)の研究結果が報じられる間近に、米モデルナの経営陣が保有株を売却していたことがわかった。各国でブースター接種が進められる中、5ヵ月後に実質的な効果が失われるという研究結果もさることながら、公表される直前での保有株売却は、経営陣への不信感を招きかねない。米『ニューヨーク・タイムズ』の2月11日の報道によると、CDCが公表した研究結果は「新型コロナウイルス感染症ワクチンは、ブースター接種によって重症化を予防する効果は87%に達するが、5ヵ月後には31%に低下する」というものだった。ワクチン関連株価の下落にCDC研究結果が拍車をかける米メルクの新型コロナ経口治療薬モルヌピラビルが各国で承認されたり、世界で感染のピークアウトが指摘されたりした影響で、新型コロナワクチン需要を巡る減速観測が強まり、ワクチン関連株価は下落傾向にある。そのような状況下、CDCの研究結果がさらに株価下落に追い打ちをかけた。モデルナの株価は、2月14日だけで13%下落し、過去10ヵ月間の最安値(140ドル)を割り込んだ。デルタ株流行の最中にあった昨年8月の最高値から70%以上も株価を下げることになった。また、米ファイザーも同日、日本も特例承認した経口治療薬パクスロビド(パキロビッドパック)が期待されているにもかかわらず、株価が2%下落した。モデルナCEOら経営幹部が報道前に保有株を売り抜ける株価下落の原因は、ほかにもある。2月11日に開示された報告書で、モデルナの最高経営責任者(CEO)のステファン・バンセル氏(49歳)を含む4人の幹部が、前週に自社株を売却していたことが発覚したのだ。米国のCEOの報酬は超高額で有名だ。報酬として自社株やストック・オプション(自社株購入権)が提供され、固定報酬よりも短期~長期インセンティブの割合が圧倒的に大きい。とはいえ、CDCの研究結果公表の間近に保有株を売却したタイミングは、株式市場に不信感をもたらした。売却額が最も多いバンセル氏は、1株当たり約155ドルで約1万9,000株を売却し、税引き前で約300万ドル(3億4,500万円)を得たほか、これまでのコロナ・パンデミック期間に計200万株近くを売却したという。バンセル氏はフランス出身で、米イーライリリー・アンド・カンパニーのベルギー責任者や、フランスの体外診断薬メーカー・ビオメリューCEOを経て、2011年にモデルナCEOに就任、同社株式の9%を保有した。ちなみに、ファイザーCEOのアルバート・ブーラ氏(60歳)も2020年11月、コロナワクチンへの期待から株価が上昇する中、保有株13万株を売却して560万ドル(約5億9,000万円)を手にした。米国の経営者はビジネスライクだとはいえ、世界では累積感染者数が4億人を超え、累積死亡者数が600万人に上る状況下、自社製品のマイナス評価を前提に、保有株を売り抜けて巨額の私的利益を確保する経営陣の姿勢は、到底納得できるものではない。4次接種を見通したワクチン接種政策が必要ところで、コロナワクチン開発企業の株価が下がる傾向は、コロナ禍の終息を示唆しているのかもしれない。また、日本政府の専門家からは「感染拡大は2月上旬にピークアウトした」という指摘もある。しかし油断は禁物だ。感染後の後遺症や、基礎疾患を持つ人や高齢者の重症化・死亡リスクを考えると、やはりワクチン接種による感染予防の重要さに変わりはない。ワクチン開発企業トップのマネーゲームの動向にかかわらず、ブースター接種が遅れている日本では、その推進が急務だ。ワクチンの有効期間や新たな変異株の発生可能性などを踏まえれば、4回目接種を見通したワクチン施策をも考えなくてはいけないかもしれない。日本の政治家には、どうか目先のことに追われず、大局的な視点で政策を考えてほしい。国や国民の危機管理を担うことは、ビジネスとは違うのだ。

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ソトラシブのコンパニオン診断薬が承認/キアゲン

 キアゲンは、2022年1月27日、非小細胞肺がん(NSCLC)患者に向けたKRAS G12C阻害や薬ソトラシブ(製品名:ルマケラス)に対するコンパニオン診断薬therascreen KRAS変異検出キット RGQ 「キアゲン」の製造販売承認を取得したと発表。  KRAS変異は日本人肺がん患者の10%程度、欧米人では25%程度に見られると言われている。本(2022)年1月には、アムジェン社のソトラシブ(製品名:ルマケラス)が、NSCLCの KRAS変異のなかで最も頻度の高いKRAS G12C変異を有するNSCLCに承認された。 therascreen KRAS変異検出キットRGQ 「キアゲン」は、迅速性と定量性に優れたリアルタイムPCR技術を用いたもの。2021年12月に製造販売承認を受け、2022 年春の保険適用を予定している。

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